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20040808
ある暑い夏の日
例年より気温が高い夏。空高くで太陽がギラギラと輝いている。家を囲む木々のすべてからジージーとセミの声が聞こえる。
時折、セミは申し合わせたようにぴたりと鳴くのをやめる。そして、数秒の静寂の後にさらに大きな声で鳴き始める。
私は締め切った書斎から居間の方に出て行った。
開け放ってあるベランダの窓からは、期待されている爽やかな風が入ってくるどころか、庭の陽炎が這い上がってくる。
窓の上に吊り下げられた怠け者の風鈴に軽く触れると、リーンと澄んだ音がした。リーン、リーンと風鈴を2、3度はじいてみたが、涼しくなるどころか耳障りなセミの鳴き声がさらに耳に響くだけだった。
そのとき、垣根の向こうに虫捕り網をもったランニングシャツの男が居ることに気づいた。薄汚れたシャツと短パンの間からは弛んだ腹を覗かせており、肉が付いて2重になった顎には無精ひげが生えている。年の頃は30代後半といった感じだろうか。
男はきょろきょろと周りの木を見回すと、その中の一本に近づいて、手に持った虫捕り網を木へ向かって振り下ろした。そして、網の中に入った何かを肩から下げた黒っぽい虫かごに押し込んだ。
「息子さんの夏休みの課題の手伝いですか。暑いのに大変ですね」と私は垣根越しに声をかけると、男は突然話しかけられたことに多少驚いた様子だったが「いや、これは俺がしたくてやってるだけだよ。昔からこういうのが好きでね」と答えた。男はその間も周りの木をきょろきょろと見回している。
「うちのも捕っていって欲しいくらいだよ」と笑いながら言うと、男は何もいわずに向きを変えてどこかに行ってしまった。後姿を見送りながら、黒っぽい虫かごに目をやると、いや正確には黒っぽく見えた虫かごであるのだが、そのなかにはセミが隙間なく詰め込まれていた。その虫かごは元々は明るい緑色であったのが、中に大量のセミが詰め込まれることによって黒っぽく見えていたのだった。
私はゾッとしたものを感じたが、子供のときはあんなこともしたなと思い直し、再び書斎に戻った。
書き物をしながら、ふと、セミの声がやんでいることに気が付いた。
窓の方に目をやると、もう日が暮れてしまっていた。ああ、そういうことか。
先ほどの男がすべてのセミを捕り尽くしてしまったのでは、と一瞬でも考えてしまった自分が馬鹿馬鹿しく感じた。これも暑さのせいだろう。日は暮れたが、気温の方は一向に下がる気配は無い。
居間で夕食を取りながらニュースを見ていると、知っている男の写真が映し出された。
『男女合わせて96人の遺体が、小型冷凍トラックの中に詰め込まれた形で発見された事件で、神奈川県警は住所不定無職の菊池一夫容疑者を逮捕しました。菊池容疑者は「うるさかったからやった」と容疑を大筋で認めているということです。また、容疑者のズボンのポケットからは97人分の住所が書かれた紙が見つかっており、警察では96人分については被害者の住所と一致することが確認されており、残る1人についても……』
ピンポーン、ピンポーン
「神奈川県警のものですが、少しお話をお伺いできませんでしょうか」
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