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20030601
スマイル製薬
茶色の小瓶からいつもの薬を二錠手に取り、グラスの水と一緒に飲み込んだ。
小瓶のラベルには、にこやかに笑う少女のイラストの上に『笑顔あふれる生活 スマイル錠』の文字と書いてある。
この薬の効能は笑顔になる。ただそれだけだ。笑顔になると言っても麻薬や覚醒剤の類ではない。私も詳しいことは分からないけど、顔の筋肉に働きかけて笑顔にするらしい。
発売されたのは三年前で、今では日本国民のほぼ全員が常用している。私も一年前に政府が常用を推奨し始めたころから飲み続けている。
スマイル錠を初めに使用したのはサービス業の世界だった。マクドナルドや吉野家などのファーストフードはもちろん、高級ホテルのレストランでも使用された。
サービス業以外でも人間関係の円滑化のためにスマイル錠を支給する会社が現れた。普通の主婦も近所づきあいのためにスマイル錠を使用した。
今では小学生でもスマイル錠は常識になっていて、幼稚園児にスマイル錠を常用させている親も居るという。
もちろん私の周りでもスマイル錠を飲んでいないのは、よほどの変人だけになっている。
街は笑顔であふれている。笑顔でない人間は嫌悪の目で見られる。
嫌悪の目という表現は間違いかもしれない。スマイル錠で作られた笑顔は完璧で、表情から嫌悪を読み取ることは出来ない。もちろん目も同様だ。
少し前なら常に笑顔の人間の方が不気味に思われただろう。でも、ここでは常に多数派が正しい。少数派の地位はいつも低い。それが嫌なら多数派の仲間に入るしかない。
そんなことを考えているうちに、私の顔に笑みが浮かぶ。
――これで出かけられる。