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20030326
脳内麻薬研究所
ここはある研究所の跡地。研究の目的は脳内麻薬の分泌量を制御する装置を作ることでした。そして、実際に彼らはその装置を完成させました。装置は靴型で、外側も内側も金色でつるつるしています。靴の先は尖っていてそこからコードが左右1本ずつ伸びています。あまりに簡素なつくりなので装置というよりは、研究員のサンダルのようです。
研究員たちは国の支援の下で装置開発を続けました。彼らは昼夜を問わず研究をしました。彼ら天才にとって研究こそが楽しみで生きがいと言えるものでした。試行錯誤を重ね、プロトタイプを使って動物実験もしました。動物愛護団体への配慮から、公には動物実験をしたことは伝えられませんでした。ハツカネズミを使った初めての動物事件は大成功でした。研究者は個の研究の成功を確信しました。
彼らは動物実験を重ね、ねずみから猫、猫から犬と次々と成功を修めました。オラウータンで実験をする頃には、外観も内部機構もほぼ完成されていました。もちろんこの実験も成功しました。靴を履かせ、装置を起動させるとオラウータンは自分で発生させた脳内麻薬によって幸せそうな顔になりました。研究者たちはデータ採取のため装置の出力を徐々に上げていきました。
- レベル1 ニヤニヤとする
- レベル2 格子を掴み体を上下に揺らし喜んでいる
- レベル3 檻の中を暴れるように走り回る
- レベル4 突然白目を剥いてぐったりする
オラウータンは自分で出した脳内麻薬に脳を冒されて植物状態になってしまいました。しかし、研究者たちは大喜びです。この実験のデータを基に人体実験の準備を始めました。準備は順調に進みました。科学に取り付かれた研究者でも、同僚が廃人になるのは見たく無いので、標準的なオラウータンと人間の脳の構造から、耐えられる負荷量も計算しました。
いよいよ人体実験の日になりました。観客として国の官僚が数人招かれました。研究者たちは装置に絶対の自信を持っています。実験体になるのは、この研究所の所長であり研究の中心人物でもある男でした。彼は部下に命じて、装置の準備をさせました。彼は金色の靴に足を入れます。では始めます、研究員が言いました。所長がうなずいたのを確認して、研究員は装置を起動しました。レベル2で人に影響が現れるはずでした。
- レベル1 無反応
- レベル2 無反応
- レベル3 無反応
所長に変化は無い。研究員は不安になり所長に大丈夫ですかと問いかける。もう少し出力を上げてくれないかと所長が答える。
- レベル4 無反応
- レベル5 顔が若干青くなっている気がする
所長、本当に大丈夫ですか。研究員が再度尋ねる。所長が答える、何もこないんだよ、何も。もっと出力を上げてみてくれないか。
- レベル6 まだ若干顔が青い
- レベル7 同じ
- レベル8 同じ
- レベル9 同じ
どうしてだ、どうしてなんだ。所長は目に涙を浮かべながら叫んだ。私の研究に間違いは無かったはずだ、動物実験だってすべてうまくいった。人間への影響も計算し尽くしたはずだ。なぜだ、なぜだ!
――
国の官僚はつまらなそうな顔をして帰って行きました。官僚の話によるとこの研究は打ち切りになるようです。畜生を楽しませるだけの研究に出す金は無いということでした。研究員は次の就職先を探し始めました。元々優秀な人材がそろっていたので、就職先はすぐに決まりました。ただ所長だけは落ち込んだままでした。
落ち込み続ける所長を見て、一部の研究員は所長が装置のせいでおかしくなったという噂をしたが、そうではないことは所長自身が一番知っています。あの装置は彼の脳に対して何の効果も及ぼしませんでした。研究所が解体されてその後の所長の行方はわかりません。
金色で先の尖ったサンダルはそれからずっと国の倉庫に放置されています。装置は完成していましたし、故障もしていませんでした。もし、この装置をあなたが利用すればきっと良い気分になれます。もし、あなたが標準的な脳の持ち主ならですが。
所長は日々の研究で脳内麻薬漬けになっていました。所長だけではありません。あの研究所にいた研究員の全員は研究を愛し、研究を生きがいにしていました。昼夜を問わず研究所で暮らし、研究を続ける彼らの脳内で脳内麻薬の分泌が止まることはありませんでした。あの装置が完成する前から、装置は彼らの脳内を脳内麻薬で満たしていたのです。